未払い養育費について-改正でできるようになったこと-

 私のようなマチ弁(地域の一般民事事件を全般的に取り扱う町医者的な弁護士)の場合、離婚に関する相談が頻繁にあります。その中でも特に多いのが、離婚すること自体は問題ないけれど、養育費の額でもめているというケースです。

第1 支払われない養育費

 実務上、養育費は子の年齢、人数及び両親の収入で一律に決まり、大体の額は一般の方でも「養育費算定表」で確認することができます。その表で、自分が離婚して親権を取得した場合、毎月いくら相手からもらう権利を得られるのかわかります。今の時代お客様もネットで予習してきますのでかなり詳しく、相談の段階で算定表を見ておおまかな養育費を把握しているお客様も多いです。

 さて、養育費はこのように額が決まっており、一般の方々にも存在が知られているにもかかわらず、あまり支払われてきませんでした。平成28年度「全国ひとり親家庭等アンケート調査」によると、母子世帯のうち継続的に養育費が支払われているのは、全体の24.3%でした。

実に全体の4分の1世帯しか養育費が支払われていません。そして細かく見ると、「養育費を受けたことがある」割合が15.5%に達します。つまり、相手が養育費を支払うことに合意をしていたとしても、4割近くが途中で支払わなくなってしまうのです。

第2 養育費を支払ってもらう手段(従来)

 このように全然支払ってもらえない養育費をいかにして支払ってもらえばよいか。養育費は子どもが20歳になるまで毎月定期的に支払ってもらうのが原則です。支払いが長期にわたるため、前述の通り投げ出されるんですね。最初に支払われているからというだけでは何も安心できません。法的に強制する必要があります。

 そこで制度上、支払いが滞った時に、給与等を2分の1まで差し押さえてしまうことができます(民事執行法第151条の2第1項3号)。

 しかし、この方法は十分ではありませんでした。まず、差押えをするには、こちらで相手方の銀行口座や住所を特定する必要があります。そして、相手が新たに銀行口座を作った場合、相手に口座を教えてもらわなければなりません。このとき、裁判所を通して相手方に開示を強制させる「財産開示命令」ができたのですが、相手がこれに応じなかったとしても最大30万円の行政罰で免れることができたため嘘や隠匿を十分に防げませんでした。

 さらに住所も変更して行方不明になった場合、自分で相手を探すのは極めて困難で金銭的な負担がかかります。このため、相手が行方をくらませた場合、養育費を諦めなければならないことも少なくありませんでした。

第3 法改正の結果

 こうした現状を踏まえて、2020年4月1日に民事執行法の改正がありました。その目玉は①財産開示命令の強制力強化(民事執行法第213条第1項5号及び6号)と②第三者からの情報取得手続(民事執行法204条以下)です。

①について、裁判所の財産開示命令に対して相手は裁判所への出頭を拒否して財産開示を拒んだり、何も話さなかったり、嘘をついたりした場合に行政罰ではなく刑事罰(6月以下の懲役または50万円以下の罰金)を受けることになりました。行政罰とは違い、刑事罰を受ければ前科になるため、強制力が強くなります。これによって、財産の把握が容易になりました。

②について、法改正の結果、登記所、日本年金機構等、銀行や証券会社から相手の勤務先や居所を突き止めることが可能になりました。相手方も、就職先や銀行に口座を秘密にすることはできませんから、これによって、給与の差し押さえが容易になりました。

第4 改正前から弁護士であればできたこと

 ところで、弁護士には「23条照会」という武器があります(弁護士法23条の2)。これは、弁護士が受任した事件について、弁護士会を通して様々な機関や会社、団体などに必要事項の報告を求めることができる制度です。強制力は強くないものの、弁護士会の要求ということで、思いのほかいろいろな情報を得ることができます。

 たとえば、携帯電話番号がわかっていれば、契約時の住所や紐付けられている口座の情報を教えてもらえます。また、相手の住所がわかっていれば、その付近の銀行や信用金庫にとりあえず口座情報の照会をかけることができます。

 このように、弁護士は法改正の前からなんとか逃げる相手に対応しようとしてきたのです。そして、今回の改正で強制執行が格段に行いやすくなりました。宣伝風になってしまいますが、相手の居場所がわからなくて養育費を諦めている方や、元配偶者にどれだけ財産があるのかわからないという方は、お子様のためにも一度弁護士に相談するのがよいです。

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