相手がお金を持っていないとき

 弁護士界隈で、伝統的に最強の反論?の一つとされているのが、「お金がないので支払えない」いわゆる手元不如意の抗弁と呼ばれるものです。

 私の場合、賃貸アパートの明渡しを求めるときによくこの反論に遭遇します。大家さんが住人に出ていってほしいとき、その原因はいろいろありますが、一番多いのが家賃の滞納です。そのため、明渡しを求めるときは大抵未払い家賃の支払いも求めるのですが、そんな金があるならとっくに支払っているという話なのです。こうなるとお手上げなので、未払い賃料や原状回復費用の回収は諦めることが多いです。

 家賃の回収だとこのようになってしまうことも多いのですが、事件の内容次第では意外と解決できることもあります。私が最近取り扱ったのは、相談者が土地を貸していた廃棄物回収業者が借地上で廃棄物の集積を行い、これを放置したまま土地を返却してきたというものでした。何十年にも渡る集積の結果、借地の上には50センチメーチトルも価値のないスクラップが集積し、手製の小屋まで残っていました。依頼人は、土地を使えないからきれいにして返してほしいと要求したのですが、借主は70代の男性一人で営業していた業者で、道具も車も処分してすでに廃業しており、お金もないから片付けられない、裁判でも何でもしてくれと突っぱねられたのでした。

 依頼人のお話を聞く限りではお金(見積もりでは5,60万円)を持っていそうもありません。他方で、最近まで廃品回収業をしていたのですから、道具や車を持ってなかろうとレンタルして自力で片付けられそうですし、それが体力的に厳しくても伝手がありそうでした。そこで金銭賠償ではなく、自力で片付けて返却することを交渉で求めることとしました。

 交渉の場を設け、借主に、現在の状況が明らかな廃棄物処理法違反であり、このまま放置するならば警察に通報する可能性があることや、まだスクラップが残されている以上は土地を返却したとはいえず賃料は発生し続けること、スクラップの出所を調査してそこの責任も調査せざるを得ないと伝えました。すると、翌月には借主が知り合いの業者と一緒にやってきてスクラップを片付けて新しい土まで入れ、借地は更地で返還されました。難しい依頼でしたが、無事に依頼者の満足を得ることができて安心しました。

 手元不如意の抗弁は強力ですが、このように交渉次第で解決できることもあり、やはり事件を粘り強く検討することが重要だと改めて思わされました。

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